今回のおもしろ楽器館は、薪束(まきたば)のような楽器「ファゴット」(バスーンとも呼ばれる)という「低い音が出る、なが〜い楽器」を紹介します。

ファゴットの歴史 ファゴットの仕組み ファゴットの演奏法 ファゴットの種類 ファゴットの特徴 ファゴットに向いている人


ファゴットの歴史
残念なことに、はっきりした起源や成り立ちはいまだに不明です。

16世紀にダブル・リードを付けたU字型の低音の出る木管楽器が出現し、17世紀初期には既に様々な音域を持つ5種類のファゴットの祖先があったそうです。

18世紀に入り、それまで2個のキイ(鍵)だったものが4個のキイになり当時の標準型となりました。その後ドイツやイギリスなどで改良が進められ8個のキイのファゴットが製作されました。

19世紀半ばにトリエベールさんによりフルートのベーム式鍵機構を応用した29個のキイのファゴットが考案されました。しかし、音質が悪かったので実用化はされなかったそうです。

19世紀以降はフランス式とドイツ式のそれぞれの規格が明確になったことで現在のファゴットが完成されました。このように、ファゴットは近代になって急速に発達を遂げた楽器であると言えるでしょう。







ファゴットの仕組み
ファゴットと言う楽器は主に2種類の呼び名があります。例えば、ドイツ・イタリア語では「ファゴット」(束にしたもの)、英語では「バスーン」と呼びます。

しかし、「バスーン」はもともとフランス語の「バッソン」(低い音)と言った言葉が変化したものだと言われています。現在、フランス意外の国々でドイツ式の楽器が主に使用されているため、ファゴットと呼ぶのが一般的となっています。

いずれにせよ、呼び名は違っても同じ楽器のことなので注意しましょう。管の全長は2.95mと非常に長く、管の折れ曲がった楽器の全長は1.5m弱に及びます。

発音源はオーボエより少し大きいダブル・リード(葦/あしを2枚合わせたリード)で、息を吹き込んだ時のリードの振動が管内に伝わり楽器の音となります。

楽器はリードを除き、5個の部分に分けられます。
(1)ボーカル(クルック)
(2)ベル・ジョイント
(3)ロング・ジョイント
  (バス・ジョイント)
(4)ウィング・ジョイント
  (テナー・ジョイント)
(5)ダブル・ジョイント
  (ブーツ・ジョイント)
と呼ばれます。

ダブル・リードから吹き込まれた空気は円錐管(ボーカル)を通り、下方(ウィング・ジョイント)に進み、この円錐管の下部(ダブル・ジョイント部分)でUターンして隣の円筒管(ロング・ジョイント)の上方に進み、最上部(ベル・ジョイント部分)の穴から外へ抜けます。

ファゴットの各管の名称と管内部の様子についてはこちらから

音域は下2点変ロ〜上3点トと大変広く、演奏表現も豊かな楽器です。ファゴットが大活躍する作品としてストラヴィンスキーの「春の祭典」の開曲部が有名です。この曲でストラヴィンスキーは「鳴らない音を必死に出そうとしている感じ」が欲しかったそうですが、現在のプレイヤーは簡単に吹いてしまいます。







ハンドレスト
ファゴットの演奏法
右手は楽器の下部の管(ダブル・ジョイント部分)に取り付けられたハンドレストと呼ばれる突起物に、親指と人指し指の間を引っ掛けて楽器を支えます。

左手はウィング・ジョイントとロング・ジョイントに置き、楽器を支えながら、穴を塞いだり開いたりします。

また、左手の親指で9個のキイを扱います。(ウィング・ジョイントに5個のキイ、ロング・ジョイントに4個のキイがついている。)

両手の指10本全てを使い操作するため、首にかけたストラップ(つりひも)に楽器全体を引っ掛けて演奏しますが、首への負担が大変大きい為、最近ではシート・ストラップ(座って演奏する場合、ストラップの端を椅子に挟んでダブル・ジョイントを包み込むタイプ)や背中でたすきがけにするストラップなどが開発されています。

このように、ハンドレストとストラップと左手で楽器を支えているため、立っても座っても演奏が可能です。ファゴットはダブル・リードを付けて息を吹き込むため、ダブル・リップといって上下の唇を歯にかぶせるようにして、(直接リードに歯が当たらない)演奏します。

ファゴットの種類
ファゴットよりも更に管が長く低い音の出る「コントラ・ファゴット」があります。
ファゴットの特徴
楽器が「なが〜い」ため、木管楽器の中では最低音域を担当します。オーケストラ、吹奏楽、室内楽等ではファゴットは無くてはならない存在です。

また柔らかく艶やかで愉快な音色はソロ楽器としても充分魅力的な楽器です。歯切れの良い音や大きく跳躍する音を演奏するのが得意な楽器です。

しかし低音域でごく弱く吹く事はかなり難しいようです。また、コミカルなとぼけた味わいはファゴットでしか表現できない最大の特徴と言えるでしょう。



ファゴットに向いている人
楽器が大きく重い(楽器の重量は約3kg)ため、手が大きく開き腕力のある人が向いているでしょう。(吹奏時はいつも斜めに楽器をかまえるので、腰痛や肩こりになる人も多いようです。)
低音部分(音楽の基礎や柱部分)を担当するため、性格的に常に冷静に全体を見まわせるふところの深さと、両手の親指で多くのキイを素早く操作するため、携帯電話の二刀流の名人に匹敵する親指能力が必要(?)かもしれません。