今回のおもしろ楽器館は7本のペダルを使って様々な音階(スケール)が演奏でき、オーケストラや魔法のシーンには欠かすことのできない「オーケストラハープ」を紹介します。

ハープの歴史 オーケストラハープの仕組み オーケストラハープの演奏方法
オーケストラハープの特徴と仲間 オーケストラハープに向いている人


ネックの表側


ネックの裏側

ハープの歴史
ハープの歴史は大変古く、紀元前3千年頃のエジプト・メソポタミア文明から始まるといわれています。世界中でハープの原形と思われる原始的なハープも発見されています。

日本では、東大寺正倉院にある「クゴ」が23弦のハープの形をしていることから、奈良時代には既にハープの原形が使われていたことがわかります。

900年頃からアイルランドやウェールズの吟遊詩人(フランスではトルヴェール、イギリスではミンストレル)達がハープをヨーロッパ各地に広めました。1200年頃からスコットランドに広まっていったものがアイリッシュハープ(ペダルのないハープ)の原形といわれています。

1600年頃のバロック時代には、半音階が演奏できるように弦の本数を増やしたダブルハープトリプルハープなど様々な種類のハープが考案されましたが、演奏するのが困難なため発展しませんでした。

1810年頃、フランスのエラール(S.Erard)によって、精巧な機能を持ったペダル式のハープが発明され、それが現代のオーケストラハープの原形となっています。


オーケストラハープの仕組み

楽器の全高は約180cmです。また材質は共鳴板ネックおよび台座は木製で、支柱ペダルディスクとその周辺のシステムは金属製です。(写真の様に支柱に木製の装飾が施されている物もあります。)


音域

弦は47本あり、ペダルを踏まない状態で変ハ長調(Ces dur)全音階(ダイアトニックスケール)に調律されています。「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」の各音に対して1つずつペダルを割り当て、それらのペダルを音階に合わせて設定することで全ての調のスケール(音階)を演奏できる仕組みになっています。右足用のペダルが4本、左足用が3本で計7本もあるのはそのためなのです。


ペダルを横から見た状態


ペダルを踏まず弦を解放した状態

 

例えばト長調(G dur)の場合は、「ド・レ・ミ・♯ファ・ソ・ラ・シ」ですから、まずは全てのペダルを1つ踏み変ハ長調(Ces dur)から半音階上のハ長調(C dur)にして、「ファ」のペダルだけもう1段踏み込み半音上げればト長調(G dur)になります。


ペダルがG dorの状態

 

つまり、ペダルを1つ踏めば半音上がり2つ踏めば全音上がるわけです。これらのペダルを「ダブル・アクション・ペダル」と呼びます。


ペダルを2段階踏んだ状態

 

ノイズカットフェルト

ペダルの切り替えの際に「ガコッ」と言う雑音の発生をやわらげるフェルトがペダルとボディーが接触する所に施されています。

また、これらのペダルは運搬の際に運び易いよう7本全てが折り畳まれます。


運搬時は全て折り畳まれる

 

ネック裏側のチューニングキー

調律のための「チューニング・キー」は演奏者から見て楽器右側面の上部にネックの形状に沿って並んでいます。調律は演奏者自らが行うため、オーケストラなどの本番前に早めにステージに来て調律をします。

このように、オーケストラハープは演奏前に調整時間が必要な楽器なのです。楽器の寿命を伸ばすためにその都度弦を緩めれば良いのでしょうが、47本もあるのでそれは不可能です。


ペダルを踏まない時のディスク


ペダルを践んで回転したディスク

各ペダルはネック内部の精巧な機構を経由して、「ディスク」と呼ばれる回転式のピッチコントローラを正確に動かします。ディスクには2本の円柱形の金属棒が付いていて、ディスクが回転する際にこの金属棒が各弦を引っ掛けながらひねり、弦のテンション(張り)を変化させて音程を変更します。

このディスクの位置が演奏者から見て楽器左側面の上部のみにあるため、弦の張力も左に片寄ってしまい楽器が歪んでしまいます。多くの演奏者が「楽器が歪んでしまうのは宿命ですよ」と言われるゆえんです。ピアノと違い楽器が長持ちしないのです。


厚みのある共鳴版


楽器裏側のサウンドホール

弦の振動は弦の下側に広がる「共鳴板」で増幅され、共鳴板本体と楽器裏側にある複数のサウンドホールから外へ解放されます。ピアノと比べ音量の小さな楽器ですが、共鳴板とサウンドホールが演奏者の近くにあるので演奏している音は比較的良く聞こえます。

大変美しく優雅に見えるハープの演奏ですが、実は見えない足下でペダル操作と言った構造上重要な操作を観客に気ずかれないよう巧みに操作していたのです。これは上半身が優雅でも両足で過酷に水をかいでいる水上の白鳥を思わせますね。ハーピスト(ハープ奏者)は女性でロングスカートで演奏すると言った私達のイメージは、「足下のペダル操作をいかにして隠すか」と言う先代の演奏者の工夫により作り上げられたイメージなのかも知れません。


ドは赤色、ファは黒または青色
オーケストラハープの演奏方法
共鳴板側(ペダルの有る方)から楽器を抱えるようにし、共鳴胴を右肩にもたせかけ、椅子に座り、小指以外の両手の指先で弦をはじいて演奏します。 ピアノと同じように両手で演奏するため、楽譜は大譜表で書かれています。

また、ピアノと同じように1本ずつ弾いて単音を演奏したり、複数本を同時にはじいて和音を演奏したり、指を連続的に滑らせればハープ特有のグリッサンド奏法(魔法のシーンで流れるあれです)も可能です。「オーケストラハープの仕組み」で紹介したペダルの設定以外は、極めて原始的でシンプルな演奏方法と言えるでしょう。

演奏者から遠い方(全景写真の左方向)に長い弦、近い方(全景写真の右側)に短い弦が張られています。 したがって、音程は演奏者に近くなるほど高くなります。ピアノのように黒鍵や白鍵も無く弦そのものが整然と47本も張られているため、弦には目印となる色が付いています。

各オクターブ共通で、「ド」には赤色、「ファ」には黒色(または青色)の弦が張られています。 この2色の目印を頼りに両手の小指以外の指先で弦を弾き、7本のペダルを両足で操作しながら全身で演奏します。

精巧なネックの内部


低音弦のディスクは形状が違う

オーケストラハープの特徴と仲間
弦の材質は、低音弦が金属製で、中・高音弦がナイロン製です。全て金属弦のピアノと違いオーケストラハープの特徴的な音色の柔らかさは、このようにナイロン製の弦を使用しているからだど言えるでしょう。

またオーケストラハープは指先で直接弦を弾きます。音として発音されるまでの間に弓やスティックのような伝達物が関与しないため、演奏者の微妙なニュアンスが聴衆にダイレクトに伝わり心を響かせるのかも知れません。

これはギターの特徴とも似ています。このように直接弦を弾いて発音する楽器を演奏法で分類する場合には「撥弦楽器」(はつげんがっき)と呼びます。つまり、ギターとオーケストラハープは同じ仲間と言うわけです。

見た目にはピアノを垂直に立てたようなオーケストラハープですが、実はギターが仲間とは意外ですね。ピアノは鍵盤の動きにハンマーが連動して弦を叩き音を出すため、打楽器の仲間です。これも意外ですね。
オーケストラハープに向いている人
ロングスカートの好きな女性、グリッサンドがたまらなく好きな人、足先と指先が敏感で腕の長い人、柔らかな音色が好きな人。