〜ドラムセット前編〜
ドラム・セットはスネア・ドラム(小太鼓)/バス・ドラム(大太鼓)/タムタム/フロア・タム/ハイハット・シンバル/フット・ペダル/シンバル・スタンド/タム・ホルダーなど大小さまざまな楽器や部品が組み合わさり1つの打楽器のセットとして構成されています。ドラム・セットと呼ばれるのはそのためなのです。これだけのセットを1回のお話では紹介しきれないため、前編と後編の2回に分けてご紹介します。今回のおもしろ楽器館はドラム・セットの中で中心的な役割を持ち、演奏する上でとても重要なスネア・ドラムについてご紹介します。

スネアドラムは英語の呼び名 スネアドラムの歴史 スネアドラムの構造(シャープな音の秘密 )スティック・グリップの種類 ショット/ストロークの種類(音楽表現の秘密) スネアドラムが打楽器を学ぶ基本である



スネアドラムは英語の呼び名
英語で『snare drum』のsnareは響き線の意味です。つまり直訳すると『響き線太鼓』と言うことになります。世界中の国により太鼓の呼び名が変わるため、特にクラシックの世界では誤解を招きやすいので注意しましょう。基本的に〜太鼓として国により下記のように呼ばれています。
(例:英語でtenor drumは中太鼓の意味/ドイツ語でgrosse Trommelは大太鼓の意味)

英語…〜drum(〜太鼓)
フランス語…〜caisse または 〜tambour(〜太鼓)
イタリア語…〜cassa または 〜tamburo(〜太鼓)
ドイツ語…〜Trommel(〜太鼓)
スネアドラムの歴史
昔のスネア・ドラムは国王のパレードや軍隊の行進で使用するために太鼓をベルトに付け奏者の右側にかけるようにして演奏されていました。行進しながら演奏するわけですから歩くたびに太鼓が揺れて左上がりに傾いてしまい、左手のスティックが太鼓の枠にあたって叩きにくいなどの理由から『レギュラー・グリップ』と呼ばれている左手だけが独特な持ち方で演奏する奏法が生まれたのです。

現在では、マーチング等での使用意外はスタンドにセットして演奏するため、必然的に太鼓が左上がりにならずにすむことから、左右のスティックを対照に持つ『マッチド・グリップ』での演奏が可能になりました。また、昔のスネア・ドラムは羊の皮を張り、後でご紹介するスナッピー(響き線)も金属ではなくガット線(羊の腸)が張られていたため、現在のスネア・ドラムに比べて音質もマイルドで軟らかい音でした。

スティックとワイヤー・ブラシ


スネアドラム裏側


スナッピー<響き線>
スネアドラムの構造(シャープな音の秘密)
一般的には、直径14インチ(約35.6cm)×厚さ51/2インチ(約14cm)のウッド・シェル(木製の胴)叉は、メタル・シェル(金属製の胴)に表面を白くザラザラにコーティングしたプラスチック製の皮(コーティング・ヘッド)やコーティングを施さない透明に透き通った皮(クリア・ヘッド)を木製叉は、金属製のリム(枠)とボルト(締め金)を使いシェル(胴)に固定して表面と裏面の皮が張られています。

チューニング(音合わせ)の際は、この表面と裏面の各ボルトを均等に閉めたり緩めたりして行います。表面のヘッドより裏面のヘッドをやや高めにチューニングするとゲート・タイム(音延び)が増し、良いバランスで響いてくれます。表面のヘッドをコーティング・ヘッド、裏面のヘッドをクリアー・ヘッドにするのが一般的です。

このスネア・ドラムを専用のスネア・スタンドに固定してスティックかワイヤー・ブラシで叩きます。表面のヘッド(叩く方のヘッド)をコーティング・ヘッドにしないと、ワイヤー・ブラシを使ってヘッド表面を滑らせて演奏する際に、ジャズ等の演奏でよく耳にする『シャーッ・シャーッ』という特徴的な音になりません。

次にスネア・ドラムの最大の特徴であるスナッピー(響き線)についてお話ししましょう。実際にスネア・ドラムを見る機会があったら、裏面側を見て下さい。20本前後に束ねられた金属の線が張ってあるはずです。実はこの金属の線に秘密があるのです。この金属の線をスナッピーと呼び、スナッピー・スイッチを切り金属の線をはずした状態(裏面側のヘッドから離す)でスネア・ドラムを叩いても『トン・トコ・トコトコトコ…』と普通の太鼓の音がするだけで、皆さんのイメージする『ツァッタカ・ザーッ』という音にはなりません。

そうです!この金属の線と裏面側のヘッドが接触して共鳴振動することにより、スネア・ドラム特有の金属的でシャープなノイズが生み出されているのです。

マッチド・グリップ
(ジャーマン・スタイル)


マッチド・グリップ
(フレンチ・スタイル/ティンパニー・グリップ)


レギュラー・グリップ
(ジャーマン・スタイル)


レギュラー・グリップ
(フレンチ・スタイル)

スティック・グリップの種類
グリップ(スティックの持ち方)と言えどもこれだけの種類があります。大きくはマッチド・グリップとレギュラー・グリップの2種類になりますが、各グリップには物理的な運動の違いから長所と短所があります。演奏する音楽に必要な要素(リズムの表現やショットのダイナミクスなど)に応じて持ち分けられれば完璧です。

●マッチド・グリップ(ジャーマン・スタイル)
手の甲を上に向け、右手と左手のスティックを同じに持つタイプ。左右が対象な持ち方なので、シンプルなリズムパターンには向いている。しっかりと芯の太い音で演奏できるが、ルーディメント的な細かいテクニックやロールなどの表現力に弱点がある。

●マッチド・グリップ(フレンチ・スタイル/ティンパニー・グリップ)
親指のツメを上に向け、人差指の第一関節でスティックをグリップするタイプ。フィンガー・テクニックと手首のローリングでショットするため、ジャーマン・スタイルよりも繊細で軽いタッチが表現できる。

●レギュラー・グリップ(ジャーマン・スタイル)
右手はマッチド・グリップのジャーマンスタイルと同じに持ち、左手はスティックの長さの1/4〜1/3の辺りを親指ではさみ、薬指の第二関節でスティックを支え人差指と中指を軽くそえるタイプ。最もポピュラーで伝統的なグリップのタイプである。オールラウンドなテクニックが表現できるが左手のパワーに弱点がある。左手のみ独特な持ち方になるため、左右の物理的な運動の違いを補うため、スネア・ドラムのセッティングの際に左側を少し上げてセットすると良い。

●レギュラー・グリップ(フレンチ・スタイル)
左手はマッチド・グリップのジャーマンスタイルと同じに持ち、右手の親指のツメを上に向け、人差指の第一関節でスティックをグリップするタイプ。右手のフィンガー・テクニックが重視され、レギュラー・グリップ(ジャーマン・スタイル)よりもより繊細な表現が可能である。右手の左右の移動(フロア・タムへの手首のローリングやシンバル・ワーク)に優れている。

●スナップ・グリップ
スティックを長く持ち(スティックのエンド先端が小指にかかるところ)人差指の第一関節でグリップするタイプ。手首のスナップを有効に使えるため、腕全体をフルに使いハードなショットが表現できる。繊細で軽いタッチの表現に弱点がある。

音楽のジャンルを問わず世界で活躍しているトップクラスのドラマーやオーケストラの打楽器奏者はこれらのグリップを全てマスターして必要に応じて臨機応変に使い分けているのです。スゴイですねー!
ショット/ストローク種類(音楽表現の秘密)
構え方や具体的なストローク(叩き方)のモーション(動作)に関してはここでは触れませんが、(日が暮れてしまい説明しきれない!)叩くリズムの速度が加速して行くと共に腕全体を使うアーム・ショットから手首を中心に使うリスト・ショット、指を使うフィンガー・ショットへと自然な身体の動きでショット(スティックをコントロールする上で重要な箇所)を変化させて行ける事が音楽表現を高める上でも重要です。

次に、演奏者の間でも意外とあいまいになっている4種類のストロークについてお話します。現在、スネア・ドラムを学んでいる方や演奏法に興味のある方にとってヒントになれば幸いです。

1)フル・ストローク…肩から耳にかけての位置から振り出し、ショットした後は再び同じハイ・ポジションに戻る。主にアクセントを付ける時に有効。

2)ダウン・ストローク…肩から耳にかけての位置から振り出し、ショットした後は打面より2〜3センチ(ローポジション)で止める。続くストロークが変わる場合に有効。(アップ・ストロークかタップ)

3)アップ・ストローク…ロー・ポジションから打面を軽くヒットした後、ハイ・ポジションまで振り上げる。アクセントは付かず、続くストロークがフル・ストロークかダウン・ストロークの場合に有効。

4)タップ…ロー・ポジションから打面を軽くヒットした後、再びロー・ポジションへ戻る。主にタップダンスのように、軽快な装飾音として使用するがアクセントにはならない。続くストロークがタップかアップ・ストロークの場合に有効。

スネア・ドラムは音階が無く極めてシンプルな楽器のため、このような4種類のストロークを柱に通常の皮を叩くヘッド・ショットは勿論、リム・ショットやロール・フラム・ドラッグ等の装飾音も巧みに使いダイナミクスに富んだ豊かな音楽表現を実現しているのです。
スネアドラムが打楽器を学ぶ基本である
スネア・ドラムはマーチングやクラシックなどの西洋音楽で頻繁に取り入れられて来たため、スティックの持ち方や構え方を初め、より自然に美しく叩くためのストロークの分析やルーディメント的な細かいテクニックなどの技術も体系化されており教則本や練習曲が豊富にそろっています。ドラム・セットを初め、打楽器全般を志す人にとっても学びやすくアカデミックな楽器なのです。スネア・ドラム(小太鼓)で音楽大学の打楽器科の入試にチャレンジする事も可能です。

吹奏楽団やオーケストラなどの演奏会で『ツァッタカ・ツァッタカ・ザーッ』と2本のスティックを操り演奏されるスネア・ドラムですが、単純そうに見えて実は大変奥の深い楽器であることがお分かり頂けたでしょうか?この表現豊かなスネア・ドラムを中心にドラム・セットは出来ているのです。

次回、『ドラム・セット後編/スネア・ドラムの仲間たち』につつ"く。