「ドンカマ」ってなんのこと?
先生、先日スタジオの録音を見学させてもらった時に演奏者の人が「ドンカマ」の返しをもっと大きくしてくださいと言っていたのだけれど、そもそも「ドンカマ」って何のことですか
それは貴重な体験だったね。
「ドンカマ」とは「ドンカマチック」と言う商品名の略称された呼び方で、一般的にはリズム・ボックスあるいはリズム・マシンの総称として用いられているのだよ。
早い話しが、多重録音(オーバー・ダビング)の際に演奏者にテンポやリズムを合わせて演奏してもらうための「メトロノーム」の事なのじゃ!
な〜んだ、そうだったんだ。
「メトロノームの音を大きくしてください」と言っていたのね。
おいおい。
そう簡単に納得するでない。
この「ドンカマ」に合わせて演奏するのは意外と難しいのじゃよ。
特にスタジオ録音の機会が少なく、演奏会を中心に活躍しているクラシック畑の人達は、初めてのスタジオ録音(オーバー・ダビングによる収録)で戸惑うようじゃ。
それってどう言うことかしら。
一定のテンポで演奏すれば良いだけじゃないの?
なにをおっしゃるエリーゼちゃん。
「ドンカマ」のテンポは一定とは限らず、途中でリタルダンド(だんだん遅く)をする事もある
のじゃよ。
指揮者だけに「ドンカマ」が配られて、指揮者がそれを聴いて演奏する時は演奏者は指揮者に合わせれば良いのじゃからそれほどでもない。
しかし、個々の演奏者に「ドンカマ」が配られる時などは、機械じみたメトロノームの音に合わせてより自然に、しかも正確に演奏するのは非常に難かしいのじゃよ。
また、たとえ「ドンカマ」のテンポが一定だとしてもその機械じみたリズムの中に感情や、より自然に心地よく聞こえるためのフレージング、また微妙な揺らぎを演奏者が表現して音楽に命を吹き込んで行かねばならないのじゃからな。
うわ〜!
それは確かに難しそうね。
ただ機械に合わせて正確に演奏するだけではいけないのね。
スタジオ録音の演奏をメインの仕事にしている人達のことを「スタジオミュージシャン」と呼ぶのじゃが、スタジオミュージシャンの人達は簡単そうに演奏しているように見えるが実は、それまでの様々な経験や苦い失敗があってこそ短時間で完璧な演奏ができるのじゃよ。
スタジオに入ってから初めて楽譜を渡されて、それを見てパッと演奏が出来る事は、スタジオミュージシャンにとっては当たり前の事なんじゃよ。
初見能力
(楽譜を見て、すぐにパッと演奏できる能力)が絶対に必要なんじゃ。
音楽ディレクターの注文にもすぐに音楽で答えられる器用さと、様々な音楽ジャンルに対応できる引出し
もたくさん持っていないと勤まらないじゃろうね。
へえ〜。スタジオミュージシャンは、実はすごい人達なのね。
自分の演奏が後世までCDとして残る事も魅力よね。
私もスタジオミュージシャンになりたいわ!
まあ録音スタジオでの演奏というのは、演奏会やホールでの録音などとは少し違った特殊な環境で演奏する事が多いのじゃ。
録音スタジオの多くはホールほど残響が少なく、細かな演奏ミスが目立ちやすい、すなわち、ごまかしが効かない環境なのじゃ。(エコールームは例外)
片耳用のイヤフォーンやヘッドフォーンから聞こえる「ドンカマ」と、人工的に加工された残響(リバーブと言う)が混ざった自分の演奏を聴きながらあるフレーズを何度も演奏したり、時には「ブース」と呼ばれる個室に入れられて1人孤独に演奏したりと少し不自然な状況でも完璧な演奏ができるくらいの図太い神経と、音に対する敏感さや繊細さが必要なのじゃ。
スタジオ録音は夜中まで行われる事もあるので、睡眠不足や深夜でも集中力を保つ精神力と体力も必要なのじゃよ。
体力まで必要なんて驚いたわ。だれでも簡単になれる分けではなさそうね…。
だけど、まずは何よりも基本が大切よね!
先生、レッスンお願いしま〜す。