シュランメルは知らんめる?
先生!
今日『シュランメル音楽』のコンサートのチラシをもらったんです。でも「シュランメル」なんて学校でも習った事がないし知らないの。
先生は知っていますか?
おお、「シュランメル」か。
もちろん、よく知っているとも。わしの大好きな音楽じゃな。
「シュランメル音楽」とは「シュランメル」さんという人の名前から取ったんじゃよ。ウィーンの音楽じゃ。
ウィーンといえば「音楽の都」ね!
モーツァルトが活躍した町でしょ?
一度は行ってみたいわぁ〜。

さすが、わしの弟子じゃな。
ウィーンは、モーツァルト以外にもベ−ト−ヴェン、ヨハン・シュトラウス、シューベルト、ブラームス、マーラーなど多くの大作曲家が活躍し、世界最高峰の一つと言われるオーケストラ、ウィーンフィルも活躍する町じゃ。
当時の大作曲家達やウィ−ンフィルの人達もシュランメル音楽を聴いていたんじゃよ。

うわァー、一流の音楽家に影響を与えた音楽なのね。
それってどんな音楽なの?
シュランメルさんってどんな人?

まぁまぁ、落ち着け。エリーゼにはちょっと早いが…。
ウィーンには「ホイリゲ」と呼ばれる飲み物があってな。その年にウィーンで取れたワインの新酒の事をそう呼ぶんじゃ。その「ホイリゲ」を飲ませる店で演奏されている音楽が「シュランメル音楽」なんじゃよ。
ちなみに「ホイリゲ」を飲ませる店の事も「ホイリゲ」と呼ぶんじゃ。

ふぅーん…。
お酒を飲みながら聴く音楽。何だか楽しそうね。
それでシュランメルさんはどんな人なの?
「ホイリゲ」でヴァイオリンを弾いていた腕のいい子供の兄弟がおってな。それがシュランメル兄弟じゃ。
兄がヨハン・シュランメル(1850ー1893)、弟がヨーゼフ・シュランメル(1852ー1895)というんじゃ。
すごい!
子供の時からもうデビューしていたの!?
そうじゃ。
音楽家だったシュランメル兄弟の両親は子供達に才能があることを見抜いていたんじゃが、ちゃんとした音楽教育を受けさせるにはお金がかかる。今も昔も同じゃな。
じゃが子供の頃からホイリゲで演奏していたシュランメル兄弟にはファンがたくさんいて、彼らを支援してくれる組合が現われたりして、ウィーンのコンセルヴァトアールでヴァイオリンと作曲を勉強することが出来たんじゃよ。
才能と努力と親の理解と周りの支援があったのね。
その通り。
しかし彼らの才能が開花したのは、音楽学校を卒業してから10年以上たった後なんじゃ。
1878年、シュランメル兄弟はヴァイオリン2本にネックが二本あるコントラギターを加えたトリオ”ヌスドルファー”を結成して自分達の曲を演奏し、人気が爆発したんじゃよ。
1884年には小さなG管クラリネットを加え、”シュランメル・カルテット”と名前を変え、1891年にはボタン式アコーディオンも入ったんじゃ。

当時のウィーンフィルの指揮者ハンス・リヒターは「今まで聴いたことがない素晴らしい音楽だ」と言い、ワルツ王と呼ばれたヨハン・シュトラウスも「本当のウィーンの音楽を聴きたければ、シュランメルを聴け」と言ったそうじゃ。
オーストリア皇太子ルドルフを始め、貴族の上流階級の御婦人方が競って彼らを自宅のサロンに招いて演奏会を開いたほど大人気じゃったんじゃ。
へぇ、そんなに人気のあった音楽って、一体どんな音楽なの?

聴いてみるのが一番じゃがのぅ。
「シュランメル音楽」には、胸に染みるような美しいメロディーで気品のある曲や、踊りだしたくなるようなうきうきする曲や、笑い出しそうになるユーモアがあふれる曲など、色々な曲があるんじゃよ。
それのどれもが、いかにもウィーン風といった感じで心地よいんじゃ〜。ポルカ、マーチ、ワルツなど1曲が3分くらいの小品も多く、聴きやすくて楽しめる音楽なんじゃ。

先生は本当に「シュランメル音楽」が好きなんですね〜。
私も聴いてみたくなっちゃった。

もう一つ呼び方を教えておこう。
「シュランメル音楽」は二本のヴァイオリンとコントラギターとG管クラリネットかボタンアコーディオン編成で演奏するのじゃが、こういう編成で演奏する楽団の事を「シュランメルン」と「ン」をつけて呼ぶんじゃよ。
シュランメル兄弟以外の他の多くの作曲家もシュランメル風な曲を作っておるが、それら全部を「シュランメル音楽」と呼ぶんじゃ。今も新しい曲が作られているんじゃよ。
ウィーンの人々は「シュランメル音楽」を今も昔もウィーンの音楽として誇りに思い、大切にしているんじゃ。

音楽の都」ウィーンに、そんな音楽があったなんて全く知らなかったわ。
でも、ウィーンで人気が高い「シュランメル音楽」が、日本であまり知られていないのはどうしてなのかしら?

日本ではじめてシュランメル音楽がLPレコードで紹介されたのは1985年(昭和60年)なんじゃ。
ウィーンフィルのメンバーによる「フィルハーモニアシュランメルン」が初来日したのが1987年。
まだ20年足らずでは、認知度が低いのじゃろう。しかし日本にも熱烈な愛好家は結構おるんじゃよ。

先生!ウィーンフィルの一流の演奏をホイリゲで聴けるんですか?

はっはっは。
ウィーンのホイリゲでに行けば演奏は聴けるが、それとは別にコンサート形式でシュランメル音楽を演奏する事もあるんじゃよ。
ウィーンフィルのメンバーによるシュランメル音楽のコンサートは100年以上前から行われているし、他にもたくさんシュランメルン楽団がコンサートをやっているんじゃ。

ほぉ〜っ、良かった。
コンサ−トなら未成年の私でも聴きに行けるわ。
でも、私も大人になったら絶対にウィーンのホイリゲに行ってみたくなりました!

わしの遠い親戚のおじいちゃんであるベートーヴェンが住んでいたハイリゲンシュタットの近くにはホイリゲがたくさんあるぞ。
ベートーヴェンが生きていた時代にはシュランメル兄弟はまだ生まれておらんが、ブドウを栽培する農家がホイリゲを飲ませる店を持つ事を許されたのが1784年じゃから、きっとベートーヴェンもモーツァルトもホイリゲを飲んで、音楽を聴いていたに違いないじゃろうよ。

今日もらった『シュランメルン音楽』のコンサートのチラシには、2008年10月5日、光が丘美術館にてトーキョー・シュランメルンのコンサートがあると書いてあります。
是非、聴きに行ってきます!

わしも聴きに行くとするか。楽しみじゃな。

『シュランメル・ファミリーとシュランメルン』
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